2012年2月5日日曜日

書評「アンコール・王たちの物語」

アンコール・王たちの物語 ~碑文・発掘成果から読み解く(NHKブックス)
石澤 良昭(著)[単行本(ソフトカバー)]

内容紹介

巨大伽藍、広大な都城をもつ遺跡群で知られるアンコール王朝。この神秘的都市を造営した諸王は何を考え、どのように生きたのか。長年に亙る碑文研究を基に諸王の事績を立体的に描く。王たちの野望とアンコール王朝興亡史。

登録情報
  • 単行本(ソフトカバー): 284ページ
  • 出版社: NHK出版 (2005/7/30)
  • ISBN-10: 4140910348
  • ISBN-13: 978-4140910344
  • 発売日: 2005/7/30
  • 商品の寸法: 18 x 12.8 x 1.6 cm 

書評

カンボジアを観光する人は、ガイドブックからある程度の知識を得ている。だが、その説明を読んでも、「アンコール・ワットが巨大な石造寺院である」こと以上に、その実態を掴めないでいる人が多いのではないだろうか。
その理由は、私の場合、アンコール文明の歴史・文化・宗教・社会経済・王権など、遺跡をより理解するための知識を持っていなかったからである。また、ガイドブックに単発で記載されている王の名前や、寺院の物理的な概要を読んでも、「だから、何なのだ?」と思い、残念ながら自信の探究心を満たすには至らない。

だが、本書を精読することにより、明快な歴史の通り道が開け、アンコール・ワットを含む各遺跡を、当時の社会感から位置付けることができる。そして、これまでの歴史知識の空白を埋めてくれて、気持ちをすっきりとさせてくる。アンコール文明を深く知ろうとする人にはうってつけの内容である。

また、著者の大書「古代カンボジア史研究」は専門的で難解な部分も多かった。一方、本書では、読者の一般的な疑問の視点に立って、平易な文章による各王のストーリーがあり、また、カンボジアの通史としても順序だてられている。

カンボジアには、紀元前から選択的に採り入れらたインド的枠組みの文化があり、クメール人たちはヒンドゥー教の神々を敬い、そのことがアンコールの大伽藍につながった。往時の人たちの約600年にわたる知恵と、その時代の最先端の科学技術が盛り込まれていた。その大建造物を造ったのは王であり、神仏への篤信と、国家鎮護から造営されたのであった。
王位継承は、争奪戦によって行われた。そのため、王の系譜に載るためには、政治権力と宗教的権威の宗務者家系の存在が、必要であった。彼らが王の即位式を執り行うことにより、王位継承を正当化するのと同時に、王自身を現人神に昇華させる役割を果たしていた。このようにインドから来た王権の枠組みの中で、その神秘性を高める祭儀の場所として、寺院が建立されていった。
また、インドから到来した思想はカンボジア的に咀嚼され、それが王国の加護を願った宗教的な意味合いをもって、大伽藍の装飾に一部になった。

これらの造営の背景を知ることができるのは、著者による碑文研究および近年の発掘の成果である。そして、本書は、古クメール語から解読されたメッセージを読者に伝えてくれるものである。

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