2012年2月12日日曜日

書評「アンコール遺跡を楽しむ」


アンコール遺跡を楽しむ [単行本]

波田野 直樹



内容紹介

アンコール・ワット、バイヨンなど80余のアンコール遺跡の歩き方・見所を写真200枚を用いて紹介した遺跡案内。自由に自分流に楽しむ人のためのガイドブック。



  • 単行本: 281ページ
  • 出版社: 連合出版 (2003/04)
  • ISBN-10: 4897721830
  • ISBN-13: 978-4897721835
  • 発売日: 2003/04
  • 商品の寸法: 21 x 15 x 2.6 cm 


書評
本書の帯には、「遺跡を歩く『私』の姿が見えてくる。」と書かれている。これは、本書が一般のハウ・ツー・ガイドブックではなく、タイトルにもあるように、アンコール遺跡を「遺跡」として楽しむ人のガイドブックであることを意味している。
著者は、遺跡の専門家でもなければ、旅行マニアでもない。世の中の「美しいもの」を探求し、その条件を満たすものがアンコールであることを発見、それをさらに深化させている。「爽快なスコール、巨大な建築物、その光と影、その精緻な細部。他にふたつとないオリジナルな存在」から、「感じた疑問を文献を読むことで解決していく過程はこれまで経験したことがないくらいスリリング」であると述べている。つまり、まず本物の「美しいもの」に浸り、それを理解する過程から知識が付随してきたのだろう。
また、「そしてアンコールの外には、いまだに極め付きの悪路と過酷な旅が待ち受けています。それらもまた、ぞっとするくらい誘惑的なカンボジアの魅力の源泉です。」とあり、観光用に整備されていない環境の中、その目的のために突き進み、自分で発見する喜びも遺跡探索の魅力だと伝えている。

本書では、各遺跡ごとに著者の解説がなされている。この著者の視点には、鋭いものがある。往時の姿の想像を前提に、遺跡の遠景から彫刻の細部までを廻り、その美的要素を宗教的・実利的に捉えている。アンコール・ワットの環濠を水利網との関連で捉え、そこから感じた「美」。また、神王思想による宗教都市及び国家鎮護寺院として捉え、 そこから感じたアンコール・ワット第一回廊のレリーフの「美」。それら現地で多大な時間を過ごさなければ感じ獲れない魅力が綴られている。
しかしながら、本書の読みどころはマイナー遺跡ハンティングである。誰も行かないような遺跡へ、腰まで泥水に浸りながら探索しあて、「他人には邪魔されない、ひとり占めできる」、その満足感にひたることができる。また、マイナー遺跡には、解説・評論がないため、「自分のオリジナルな感性」を受け入れることができる。その経験が綴られたエッセイが、読者と著者とが本当に対面できる項目であり、アンコール遺跡の魅力を本心で語っている。

アンコールを訪れる人の目的は様々で、私の場合、建築学を主軸としている。また、私のマイナー遺跡の楽しみ方は、冒険的な要素と、そこの静寂に包まれながら「荒城の月」のような感傷に浸ることである。そのように各個人の趣向があるだろう。しかし、本書の内容は総合的な知識を背景に解説されており、読者一般的に受け入れられるだろう。



私は、アンコール遺跡を訪れたことがある人がこの本を読むことをお薦めする。読んでいくうちに、「あそこは、そうだったな。」と思い出し、また、写真と合わせて解説を読むと、自分とは違った視点の魅力に気づくだろう。なぜなら、本書は、その遺跡のリアリティーを、その場から直に伝えているものだからだ。




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